SARSでも歯科医院は安全


Source: Forum, the Straits Times, p17, April 7, 2003

記事抄訳

関係各省の迅速な対応によってSARSウィルスの蔓延を封じ込められたことに謝意を表します。


SARSを引き起こすウィルスは私たちにとって新しいものですが、現段階の当地の症例では、空気感染によってウィルスが広がることはないことを示唆しています。ウィルスは咳やくしゃみなどの飛沫によってウィルスは広がっています。潜伏期間中(3-10日間)にある人や発熱していない感染者が感染を引き起こすことがないことが知られています。


シンガポール保健省および歯科局局長は各歯科医師に対しSARSの最新情報を通達し、医科および歯科に関わる医療関係者が取るべき警戒点を強調しました。現在までに歯科医およびその関係者が治療中に感染したとの報告はありません。


咳や寒気、高熱がある人が歯医者に行こうとは通常思いません。歯科医院で感染が起きていないことは、こういった人が来ないことからも説明できるでしょう。


シンガポールの歯科医師はインフェクションコントロール(感染管理・予防)を徹底しています。使い捨ての器材を不自由なく使い、使い捨てに出来ない器械等はオートクレーブにより滅菌しています。オートクレーブとは134度の高圧釜を用いて芽胞やウィルスを含むすべての有機生命体を取り除くものです。


歯科医師は以前からマスク、手袋、ガウンの使用方法に長けています。また受付などで過去10日間以内に感染地域を旅行したことがあるかなどのスクリーニングも行っています。こういった調査等をすることによって、当地での歯科治療に対する安全性を高めています。


シンガポール歯科医師会は歯科治療の安全性について問い合わせをいただいた一般会員の方に感謝の意を表したいと思います。また我々を信じていただきご予約をお守りいただいた患者様にも敬意を表します。


感染危険地域に旅行されたことがあると自己申告された方、そしてさらに隔離政策の一環として来院を数週間先延ばしすることに同意していただいた方たちにも称賛を讃えたいと思います。このような社会的責務が認知・推奨されていくよう希望します。


シンガポール歯科医師会会長
Tang Kok Wec


解説


SARSは発病した感染者に近づくことがない限り、感染するおそれはほとんどないものとされています。一般的な予防方法としては手洗いとうがいが一番の方法です。小さな子供や全身疾患を伴う中年以上の方でご心配が強い方には、手で触るものへの清拭にも気を配ってください。


SARSの風評によって一般市民にも誤解が生まれていました。SARSの集中治療を行っている近くのショッピングセンターには全く人が入らなくなってしまったとの報道もありました。ショッピングセンター以外にも食堂、映画館、病院なども人の流れが途絶えたようです。おそらく歯科医院にも同じことが言えると思います。そこで今回の記事が投稿されたのだと思われます。


今回のSARS騒動に対するシンガポール政府の迅速かつ的確な政策には、感服しました。SARS感染者が認められていた当初はCDC(疾病管理予防センター)で集中管理していましたが、SARS患者の増加傾向が認められると素早くTTSH(タン トック セン 病院)をSARSの指定病院と位置づけました。現在もTTSHによってSARSの集中管理を行っています。


SARSの感染が疑われる人は政府の管理下におかれ自宅謹慎になります。対象となるのは発病者に接触したおそれのある人になります。発病者から感染したと思われる日付から入院に到る日にまで接触した人を丹念に調べられます。そしてその人たちに呼び出しがかかるようです。もし呼び出しに応じない場合や見つからない場合には名前が公表されます。自宅謹慎中は毎日数回の電話による在宅の確認が行われます。謹慎に服していなかった人には初犯で$5000の罰金、重犯で$10000の罰金、6か月の懲役が科せられます。現在遠隔カメラによる監視も計画中との報道もありました。

解説記事投稿後、インターネットカメラによるチェックが実施されるようになりました。また度重なる自宅謹慎を守らなかった者には、万引き防止に使われるような識別タグが取り付けられるようになりました。(4月12日追加記事)

Pasir Panjong でのケース以来、一層の検疫強化のため初犯の場合には$10000、重犯の場合には$20000の罰金・1年以下の懲役に罰則が引き上げられました。(4月26日追加)


SARSの発病者や感染の疑いがある人には、厳重な管理下におかれています。日本では人権侵害とも受け止められそうですが、SARSの爆発的な感染者の増加がシンガポールでは食い止めることが出来ました。放置すれば確実に指数関数グラフのように患者数が増えたことでしょう。

シンガポール保健省およびシンガポール歯科医師会の態度も明確でした。双方ともほぼ毎日手紙やe-mailにて最新情報を送ってきました。おかげで私たち医療者側は正しい情報を確実に受け取ることが出来ました。通常こういった情報は日本では積極的に求めていかないと得ることは出来ません。シンガポールの政府機関および団体の的確な対応には、まさしく称賛に値するものでした。


先日イスタナでゴーチョクトンの会見がありました。その会見を見てか、一般市民も安心して以前よりは人が外出するようになってきたようです。


現在のところウィルスの全容が解明されていないこともあって、根治することは出来ません。しかしながら我々には予防できうる手段を持っています。心配しすぎる必要は全くありません。

 

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