目に歯のインプラントを

source: The Straits Times, p4, January 24 2004
29 Jan '04 Update
4 Aug '04 Update

【抄訳】
盲目の十代のタイ人を助けるため、当地の医師が歯の一部を目に埋め込むことになる。


19歳の少年はこの画期的な技術の恩恵を受ける、当地初の人となるだろう。その技術とはすぐに目が見えるようになるものである。


手術は眼科医および口腔外科医によって行われ、歯根および骨の一部、それに介在する歯根膜を目に移植するものである。


 SNEC(Singapore National Eye Centre)の助教授Donald Tan医師は、角膜が損傷して視力を失ったものに対する最終的な手段としている。視神経や網膜の損傷による盲目の人にはこの施術の恩恵を受けることは出来ない。


 Tan医師、眼科医Julian Thengおよび歯科医Andrew Tayは1年前に英国に行きこの技術を学んだ。


 この手術を希望し予約待ちとなっている人は20人にもなる。手術チームは十代のタイ人から治療を行うことにした。これはもっとも成功率が高いと見込まれているからである。


 Tan医師によると、歯が手術に用いられるのは、小さなプラスチックの円筒を支持できる唯一の媒体であり、目に付着できるものであるから、と言う。


 プラスチックの筒を歯と骨から出来たブロックに入れて、目に移植します。透明な筒が光を網膜に導き、目が見える仕組みになっています。


 手術は2回に分けて行われ、2-4か月後に二次手術を行う。それぞれの手術時間は4-8時間が費やされ、眼科医と口腔外科医のもとで行われる。


 一次手術では歯およびアゴの一部分が摘出される。
 摘出物は小さなブロックに整形され、真ん中に穴が開けられます。そしてその穴にプラスチックの筒が挿入されます。


 できあがったものを患者の頬に埋め、血管がブロック上に出来るようにします。2か月後にブロックを頬から取り出し、角膜の一部・虹彩・レンズ体を取り除いた目に移植します。


 もし成功すれば、患者が得られる視力は運転免許を選るには十分なものになるだろう。しかし視野は通常の人と比べて約1/3だという。


【解説】
歯を目に移植する!!


と言っても、目でごはんを食べるわけではありません。
盲目の人に目が見えるようにするためのものです。


角膜が損傷し、視力を失った場合には、従来の考え方どおりでいけば、角膜移植しか方法がありません。当然ながら、角膜移植は提供者が出ないと成立しません。


現在細胞工学・組織培養の技術が飛躍的な進歩を遂げていますが、複雑な臓器における細胞や組織の確立・維持はまだまだです。その中で折衷案として、損傷部位に自分の別組織を代用として移植する方法が開発されています。歯を目に移植する方法もその内の一つです。


歯およびその周辺の組織は、他にはない構造を持っています。


ここで使われている歯根部の象牙質には血管がありません。そのため何かを取り付けるにも、拒絶反応などがおきにくくなじみやすい場所でもあります。このことは歯医者でものを詰めたり、くっつけたりすることがあるので御存知でしょう。ものをくっつけるセメントと呼ばれるものも、最近は化学的に歯に付くような材料に改良されてきています。歯に光が通るようなレンズ付きのプラスチック(化学樹脂)を接着することは、近年の歯科材料を使えば簡単なことです。


また歯の周囲の組織を考えると、歯は骨や歯ぐきに支えられています。歯と骨をつなぐ組織を歯根膜と言います。歯根膜にはコラーゲン(繊維)や血管が多く含まれ、歯をつなぎ止めるという役割を果たしています。また未分化な細胞、つまりいろいろな細胞に分化(変化)できる細胞が多く含まれています。この特長を生かすことによって、移植先でもレンズ付きの歯を維持することが出来るようになったものと思われます。


この手術は、・光が入り込む道筋を付けるコンタクトレンズのようなプラスチックが開発されたこと、・プラスチックを歯に接着する技術が開発されたこと、・移植技術の革新によってもたらされたものです。角膜が傷つき視力を失った(光が眼球内に入らなくなった)方でも、この方法を使えば光を導き、網膜上に結像することが出来ます。


細胞工学・組織培養・臓器工場など様々な分野の技術は加速度的な勢いで進歩をしています。今後は代用臓器ではなく、本物の目や歯が自分の体や動物の体で作られ、それをあてがうという時代も到来するでしょう。角膜再生や歯の再生と言ったことも遠い未来のお話ではありません。ただ、親から受け継いだ自分の体を大事に使うべきだと言うことには、今も昔も、そして未来も変わりません。今持っている体を大事にし、もし万が一何かがあったら、こんな救済方法もあると言うお話です。

追記:2004年8月2日付け the Strait Times によると、彼は目が見えるようになったそうです。顔写真付で記事が出ていました。

 

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