初の顔面移植手術
Refered Article: 2 Dec 2005 Strait Times p.1
Update: 5 Dec 2005
フランスの外科医によって、世界初の顔面移植が行われた。犬におそわれて顔面を負傷した女性に、鼻や顎・口唇を移植した。
38歳の女性は二日に及ぶ手術を行い、術後順調とのこと。
移植のドナー(提供者)は事故により脳死が宣告されていました。ドナーの家族は、皮膚の状態や骨の構造がよく似ているのを確認の上、移植に同意をしました。
レシピエント(受容者:移植を受けた患者)は6か月前に犬に顔面下部を噛みちぎられ、食べることや明瞭に話すことも出来なくなってしまっていました。
1998年に世界初の手の移植も行ったDr Jean-Micheal Dubernardがこの手術を行いました。
担当医は今後の人生において患者が心理学的医学的にも重大なリスクに向かい合わなければならないことを示唆しています。
患者の回復にはいくつかの乗り越えなければいけないステップがある。出血があるかどうか(血管が機能するか)や、移植した神経組織が機能するかどうか、その後口を動かせることが出来るか、感じることが出来るかなどである。また移植組織の拒絶反応の問題が生涯にわたってある。このことをさけるため、患者は免疫抑制剤を服用することになるだろう。
これらの問題に対して、どのように対応すべきかは分かっている。しかしながら患者が直面する心理的な問題についてどうすべきかは検討課題だ。
皮膚の移植のみならず、筋肉、神経組織、血管をも移植することは、マイクロサージェリー*(手術用実体顕微鏡を用いた外科手術)の進歩により、この十年で可能となった。
しかし倫理学的な考察も必要である。
フランスの医療倫理協議会では、8月に顔面移植は患者が食べることや話すことが出来なくなった場合にのみ正当化できると決めていました。
【解説】
医学の発展により、以前までなら手を施すことが出来なかったものでも、治療・回復の手段を得ることが出来るようになってきます。
もちろんこれは歓迎すべきものですが、付随して別の問題を考える必要が出てきます。倫理上の問題、そして患者自身の心理学的な問題です。
臓器移植に関する倫理学的・心理学的な見解は欧米においても日本においても、ある程度の承認は得られてきています。欧米と日本を含めたアジア諸国では死生観の違いはあるものの、臓器の提供者側と受容者側で共通の理解が得られれば、移植手術が行われています。
ただ移植が顔面となるとどうなるのでしょうか?目に直接触れるところですので、簡単にカタを付けるわけにはいきません。二日後の記事には、患者のコメントが載っていました。「良くはないけど、移植手術が成功して嬉しい。」このコメントに対して、皆さんは如何に思うでしょうか?
移植を受けた当の本人は、これから先いろいろな問題を抱えると思います。機能的な問題や、外見的な問題のみならず、自己のアイデンティティーや人間関係の問題、それぞれに真摯にとり組む必要が出てきます。
そしてこれは一生に渡って逃げることの出来ない問題です。
*蛇足ですが、歯科でも実体顕微鏡を用いた治療を行うようになってきています。口の中の小さな手術や細かな根の治療の際に顕微鏡を用いるようになってきました。
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