牙科


ここシンガポールでは英語と他言語との多重の名称表記をよくみかけます。


その中で中国語は漢字を用いているため、中国語を知らなくても何となく意味が分かります。


さて、表題の牙科ですが、牙科ってなんでしょう。


日本で牙(きば)といえば、動物の口の中の鋭い歯であったり、口元から大きく伸びた角状のものであったりします。日本語では獣と人の歯を分けているため、人の歯に牙という字は使いません。前から3番目の歯はとがっているため、牙という字を使っても良いような気はしますが、「犬のような歯」ということで犬歯と呼ばれています。犬という言葉を使いたくない場合には、糸切り歯と呼ばれています。歯並びが悪いと八重歯と呼ばれることがあります。


牙という字を広辞苑で引いてみますと、「鋭くとがった歯」が始めに挙げられています。二番目には「単に、歯」と書かれています。三番目には、「人の犬歯」と書かれています。現在の歯という字は簡略体であり、本来はもう少し画数の多い字です。日本で作られた簡略体のため、こちらシンガポールでこの字はあまり見かけることはありません。私たちがこちらで作った名刺や看板は特別に外字で作らせたものですので、よーく見ると他の字体とは浮いて見えます。

象やイノシシのような牙(tusk)や、肉食獣などのとがった歯(fang)は、英語においても「tooth」とは呼びません。明確に動物とは違うことを意識したことによって、違う名前が付けられたものと思われます。英語で犬歯のことは、「canine (tooth)」といいます。canineは本来犬のことを指します。canineという動物的な言葉を使いたくないときには、「cuspid(とがった歯)」を使っています。


歯という本来の字(簡略体でない字、齒)は、見れば分かるかと思いますが、下の部分が口を表していて、歯が並んでいる様を模した字になっています。上の部分(止)が発音(シ)を表しています。漢字の成り立ちは、かみ合わせや歯並びの状態から出来ています。この字は歯の意味としては本来用いられてはいなかったのではないでしょうか。旧字体のこの漢字は、ここシンガポールでは矯正歯科などで見かけられます。


表題の牙科はここシンガポールでは歯科を意味します。ここは歯科医院のページですし、上の方の段落を読むと、想像はついていたとは思います。何となくは分かりますが、動物の歯医者さんみたいですよね。そういえば、少し前のストレートタイムスに、シンガポール動物園のヒョウ(leopard)の犬歯が折れたので、犬歯に金歯を数千ドルかけて作りました、という記事が載っていました。これこそ、牙科じゃないの、とつっこみを入れてしまいたくなるのは、日本の歯医者さんだけでしょうか?

 

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