残された歯型
Update: 29 March 2004
Source: The Sunday Times, Life P.33, March 28, 2004
【抄訳】
犯行現場に残されたものは、それがたとえ歯型であっても、容疑者を有罪にすることも、容疑を晴らすこともある。
Craig医師によれば、DNAプロファイリングが通常の検分に使われる前までは、歯科による同一性の確認が最終的な手段でもあった。法歯学は現在でも、殺人・テロ・交通事故などによる被害者の身元確認に用いられている。
法歯学は2通りの方法論に分かれている。通常の鑑別にはアゴのレントゲン写真や充填物・義歯などから以前の治療記録と比較して、故人の確認をするものである。もう一つは歯型から検証するものである。この方法論は、歯型が指紋と同様に個人の特徴を示すことに依っている。
歯型による個人の鑑定は未だ疑問の残るものであり、法歯学の分野で激しく討論されている。歯型は有罪の証拠と言うよりは、冤罪の証拠として用いられている。
Craig医師によれば、歯型は法廷において重大な証拠になりうる、と言う。
Craig医師が関わった有名な事件の中には、裕福な家庭内で長女の結婚式の夜に起きた殺人事件がある。犯人は3週間の逃走の末逮捕され、Craig医師により殺害現場に連れて行かれた。証拠は何だったと思う?一つのチーズに付けられた2つの噛み跡だった。
Craig医師は750の判例に携わり、250の歯型について調査をしている。彼はSheffieldユs大学臨床歯学の口腔病理学部門の講師および研究者として働き、法歯学分野も重要な一部門となっている。
【解説】
法医学は現在小説やドキュメンタリーに出てくることもあるので、聞いたことのある方も多いでしょう。事故や事件などで被害者の容態から原因を医科学的に追求するものです。
法歯学は法医学と比べると一般的ではないかもしれません。上の記事でも挙げられたように、特徴的な歯の形から個人の特定に多く用いられています。
歯の形や溝などは個人特有のものです。また歯科治療を受けたときの充填物や補綴物は非可逆的なものであり、診療録(カルテ)やレントゲン写真、模型などに記録の残っているものです。身元の特定を行う場合、これらの記録をもとにすれば、確実なものになります。
身元を確認しやすい物的証拠として歯が使われる利点は、骨より硬い歯が散逸しにくいものであり、歯科で使われる金属や樹脂などもその状態で残存する点にあります。DNAの採取は髪の毛や皮膚などのタンパク質が不可欠です。腐敗・焼失・白骨化などがみられた場合には、DNAプロファイリングは不可能になります。またDNAプロファイリングは本人のサンプルがあれば100%確実なものになりますが、本人のサンプルがない場合は両親や子供との比較対照になります。
法歯学による被害者の特定が有名になったのは、雄鷹山での事件でしょうか?この時には地元の歯科医師の協力により、被害者の歯式・レントゲン写真・模型が公開され、これらをもとに身元の特定が出来ました。この時以来、身元不明の屍体が発見された場合、警察は地元の歯科医に歯式・口腔内写真・アゴのレントゲン写真の照会が来るようになっています。
上の記事ではチーズに残された歯型から真犯人が捕まったようです。歯型は噛む方向や力加減によっても、形が変わるので絶対的な確証が得られる証拠とはなりにくいことがあります。決まった人数の集団の中で、歯型から一人を特定するのはできますが、不特定多数の中から歯型を用いて一人を特定するのは困難です。
喧嘩で噛まれた跡の出血や傷口を主訴として来院する方もいます。その場合誰にどこで噛まれたかは正直に申告してください。間違っても人に噛まれたのに動物に噛まれたなどと嘘を言ってはいけません。法歯学の知識が無くてもすぐに分かります。多くの場合、動物に噛まれたと嘘を付いている場合は、言うことのできない情事の相手に噛まれたことがほとんどです。ややこしい傷害事件として処理される前に、病態については素直に申告しましょう。医師側も情状酌量してくれるかもしれません。
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