1. はじめに
2. 歯肉炎
3. 軽度の歯周病
4. 中等度の歯周病
5. 重度の歯周病
要旨 お口の中の2大疾患として、虫歯と並列されてあげられるものに歯周病があります。歯を失う一番の原因は歯周病です。歯周病は内臓の病気と同じく“徴候のない病気”のうちの一つとしてあげられます。 |
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子供の頃かかりやすいお口の病気として虫歯があげられます。大人になってからかかりやすい病気としては歯周病があげられます。40代以上の成人のほぼ90%近くが歯周病になっているとされています。「私は虫歯になりにくい人なの」とタカをくくっていた人はメインテナンスがおろそかになりやすいため、進行していく歯周病に気づかない場合もあります。虫歯を作る細菌と歯周病を作る細菌とは種類が異なるため、虫歯の細菌に対してある程度の抵抗力を持っている人でも、歯周病の細菌に対する抵抗力を持っているとは限らないのです。
お口の中に溜まった歯垢・歯石中には様々な細菌が含まれています。この歯垢・歯石が存在し続けることにより、歯周病が引き起こされ始めます。たとえば、手や足を怪我したとき、清潔に消毒されていれば問題はないものの、土ぼこりなどがついたままにしておくと、化膿していくことがあるのと同じです。
歯垢や歯石などの原因の元がとれないまま長期間ついていることにより、炎症反応は慢性化していくことになります。元々細菌を駆除しようと始まった炎症反応であったものが、長期化する中で自分の体に悪影響を及ぼすこともあります。例えるならば、浴室やトイレの掃除をきれいにしようとするあまり、洗剤の臭いで自分の体調を崩してしまうようなものでしょうか。お口の中で、慢性炎症における負の部分が顕著になったものが歯周病と言えるでしょう。
歯周病はひどくなると、歯ぐきの腫れのみではなく、歯ぐきから膿が出たり、歯を支える骨が少なくなって歯が動くことになったりします。はっきりとした自覚症状がでるのは、病態がかなり進行した段階になってからです。はっきりとした痛みを伴わないので、気づいたときには手遅れになってしまうことも十分あり得るわけです。
自分のお口を鏡で見て、歯の根もと辺りの歯ぐきが他の所と比べて赤くなっている所や、丸みを帯びている所などは要注意です。また口で表現することは出来ないが、もやもやとした感じがある場所によく起こることがある場合には注意する必要があるでしょう。ぼんやりした感じはたいていの場合すぐ症状として治まってきます。しかしながら胃潰瘍のような内臓の病気と同じく、症状がないから病態もたいしたことはない、とは限らないのです。しかも歯ぐきは歯という構造物があるため、他臓器の粘膜のように単純にカサブタで覆うことが出来れば治癒するというものでもありません。
健康な歯は根元の部分が骨によって支えられ、その上に歯ぐきがピッタリとくっついています。歯と歯ぐきの付着は強固に付いているわけではありません。歯周病などにより付着が剥がれることがあります。歯と歯ぐきの付着が剥がれて出来た隙間をポケットと呼びます。
歯ぐきの下には歯を支える骨があり、歯と骨の間にはクッションの役割を果たす膜(歯根膜)があります。この膜にある繊維が、歯と骨をつなぐ役割を果たしています。歯周病になると、この繊維部分が破壊され、骨と歯が離れていきます。支える役割を失った骨はなくなっていきます。骨が無くなることに比例して、歯に付着している歯ぐきの位置も歯の根元方向に下がってきます。
歯周病になると歯と歯ぐきの隙間、ポケットが大きくなっていきます。歯と歯の間にデンタルフロスを入れて、歯と歯ぐきの隙間にどれくらいデンタルフロスが入るかを見ることで確かめることも出来ます。
ポケットの中の細菌が歯ぐきや歯の根の表面(セメント質)に定着すると、破壊された繊維を再建できないために治癒することが出来なくなってしまいます。このことは化膿している傷口にカサブタが出来ないことと同じです。細菌感染と組織破壊を繰り返しながら、歯周病は進行していきます。
歯周病の原因となるものは細菌の他にも、細菌に対する抵抗性*や傷つけられた組織を治す力*の良し悪しも関わってきます。原因となるもののなかで自分でコントロールできる第一のものは正しいブラッシングによる毎日のお手入れです。歯科医の側でも定期的にメインテナンスを行いますが、日頃のお手入れが悪い場合には効果的に歯周病をコントロールすることは出来ません。まずは毎日の歯のお掃除を見つめ直し、どのようにこの病気と向かい合っていくのかを考えていく必要があります。
*細菌に対する抵抗性や傷つけられた組織を治す力の良し悪しは自分自身の健康状態と大きく関連します。生まれつきの体の堅強さについてはコントロールできませんが、日常生活の見つめ直しによっては、上記の2つを改善することも可能でしょう。最もよく知られている例としては、喫煙があげられます。喫煙は唾液の量を少なくしたり、血液の循環量を少なくすることが知られています。肺・気管支のみではなく口の中にも悪影響を及ぼします。歯周病のコントロールには煙草量のコントロールも重要なものの一つです。
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