歯周病だって? 
じゃあ、ビタミンをとりなさい(?)


source: Streats, Thursday, November 28, 2002, p29
29 Nov '02 Update


抄訳
 重度の歯周病にかかっている人は健全な人と比べて、抗酸化物質量が少ない。
 バーミンガム大学のDr Iain Chapple によれば、歯周病にかかっている人は抗酸化物質、例えばビタミンCやEを多く取るべきだと言っています。
 歯肉溝滲出液(歯と歯ぐきの隙間ににじみ出る液体)について、重度歯周病の人と健全な人とをそれぞれ10人比較した。結果、健全な人には抗酸化物質量が少ない一方、歯周病の人には歯肉溝滲出液中および血流中の抗酸化物質量が少ないことが分かった。抗酸化物質にはフリーラディカル(体内組織を破壊するもの)を抑える働きがあります。
 重度の歯周病にかかっている人に抗酸化物質量が少ないのは、抗酸化物質の体内自己生産量が少ないためか、あるいは抗酸化物質を多く含む柑橘系果物や緑黄色野菜をあまりたべないことによるものからかもしれない。(Reuters伝)


解説
 フリーラディカルとは活性酸素や一酸化窒素などの不安定な分子の総称です。健康特集のTV番組や雑誌に興味を持っている人であれば、ここ最近よく耳にする単語だと思います。活性酸素は人体にダメージを与える悪玉だと考えられてきました。活性酸素を抑えるにはビタミンや、フラボノイド、ポリフェノールなどの抗酸化物質をたくさん取るべきだと声高に言われています。このこと自体には間違いのないことですが、これらの抗酸化物質を摂取することにより、直ちに歯周病が治るとか予防できるわけでは残念ながらありません。記事中にも治るとか予防できるとかは書かれていません。


 元来酸素は危険な分子です。金属がさびるように、体の中の有機質も酸素の存在により変性してしまいます。しかしながら我々は酸素を吸って、エネルギーを生み出しています。このエネルギーの生産方法は、例えるならば我々が原子炉を開発したことに似ています。危険ではあるが、うまくコントロールすることによって効率よく高エネルギー生産を行えるのです。


 原子炉ではエネルギー生産の後、高濃度の放射線物質が残ります。これは我々の酸素を使ったエネルギー生産でも同じです。非常に強い活性を持ったフリーラディカルが発生します。当初このフリーラディカルは毒性の強さから組織損傷の原因であるとされていました。現在では、生体内で毒性を生かしたフリーラディカルの再利用そして最終処理をしていることが分かってきました。


 フリーラディカルはそれ自体が強い毒性を持っているので、侵入してきた細菌や自己増殖をするガン細胞の除去に用いられています。また非常に低濃度のフリーラディカルを用いることにより、細胞間伝達物質の役割をもします。例えるならば凶器(フリーラディカル)をちらつかせて、他人(他の細胞)を動かすようなものでしょうか?具体的には免疫細胞間の情報交換、神経系の賦活化、血管・気管の拡張などです。ニトログリセリンによる狭心症の治療やバイアグラによる機能不全の回復は、まさにこのフリーラディカルの生理作用を応用したものです。


 危険なフリーラディカルを最終処理するには生体内の酵素や上に挙げたビタミン剤などが用いられます。フリーラディカルは幾種類かの生体内酵素により段階的に無害なものに分解されていきます。ビタミンE(脂溶性)やビタミンC(水溶性)はそれぞれ細胞内外に存在しています。これらビタミンもフリーラディカルに対して、生体内物質の身代わりになるべく反応して、毒性を中和する働きがあります。


 フリーラディカルの最終処理が間に合わない場合、余ったフリーラディカルは体内の組織を傷めてしまいます。歯周病の病理では、大量の細菌に対してフリーラディカルによる細菌の除去を行おうとするものの、効果的に細菌の除去が行えず、余ったフリーラディカルが歯肉内の結合組織を破壊してしまうと考えられています。


 ではフリーラディカルを除去できれば、歯周病の進行は食い止められるのでしょうか?残念ながら、それだけでは不十分だと考えられます。歯周病の成立・進行には、細菌による影響・細菌に対する体の抵抗性・組織の修復力が複雑に関係しています。


 原因が存在することにより、症状が出現してきている、ことをまず頭に入れておく必要があります。薬には、病因を絶つ薬(抗生物質など)と症状を緩和する薬(痛み止め、解熱剤など)があります。抗酸化物質はこの点で症状を緩和する薬に分類することが出来るでしょう。しかし病因を根絶する薬剤とはなりえません。今後臨床的応用研究により、ビタミン剤の局所直接投与などによる症状の緩和・改善についての報告などが出される可能性はあります。


 現代人の食生活は 栄養学的に偏向していることはよく言われています。その中でビタミンの不足などにより体の抵抗性を弱めることは周知の事実です。これは人の歯ぐきでも同じです。確かに言えることは栄養学的に均整の取れた食事をすることは、万病の予防薬であることです。歯周病とビタミンもそのような関係とお考え下さい。ビタミン不足が歯周病を直接引き起こすものでもありませんし、ビタミンによって歯周病が治るものでもありません。歯周病進行を増悪または改善する様々な素因の中の一つとお考えいただければいいかと思います。


 TVや雑誌・新聞では編集により発言者のコメントの意図がぼやかされたり強い表現になったりすることはしばしばあります。マスコミの言葉を真に受けて、過大に反応しすぎるのは少々危険です。軽い提案ぐらいに受け止めておくようにしましょう。栄養学の提案でさえ、栄養素が過大になってしまうと、肥満などの成人病に繋がると反駁されるぐらいです。何事にも“ほどほど”にという中庸さも時には必要です。

 

もどる  つぎへ

お話目次

Home

 

Copyright © 2002-2011 by Dr K. Sakurai, Ko Djeng Dental Centre Pte Ltd. All rights reserved.
All articles, including photos, illustrations and animations, are produced by K. SAKURAI.
記事についてのお問い合わせはメールにて対応致します。