歯の付く慣用句

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『あ』

奥歯に衣(きぬ)着せる
事実をありのままに言わないこと。
思わせぶりに言うこと。(広辞苑より改変)

【対】歯に衣着せない
【歯科医注釈】歯科治療では、衣をかぶせることはありませんが、歯と歯との間にレジン充填などをするとき帯をつけることはあります。またを被せることもあります。

奥歯に剣
敵意をかくして、表面に出さないこと。(広辞苑より改変)


【歯科医注釈】奥歯に剣を隠せるとはなかなかの腕の持ち主のようです。歯科で作る入れ歯の人工歯は、天然のものと比べてかみ切る力に弱いことがあります。その際人工歯に金属(メタルブレード)をいれて、入れ歯でもかみ切ることが簡単にする方法があります。このことは入れ歯を使っていくうちにすり減って、かみ合わせが低くなることを予防することにもなります。歯科の世界では「奥歯に剣」は有り得る話なのです。

奥歯に物がはさまったよう
思うことを率直に言っていない感じ。(広辞苑より改変)


【歯科医注釈】歯に物が挟まると、えもいわれぬ不快感がありますよね。年齢とともに、また歯周病の進行とともに歯を支える骨は失われていきます。骨を失うことは、かむことに対して歯が不安定になるということです。食べ物を食べたとき、通常の人でも少なからず歯は動いています。骨が少なくなっている人はさらに動く度合いが高くなります。歯が動いたことにより、歯と歯との間に隙間が増え、物が隙間に入ります。かみ合わせによる歯と歯との接触がなくなると、歯は元の位置に戻ります。その時物が挟まったままになりなかなか取れないことがあります。物が挟まったままですと、むずがゆい感じがするだけでなく、歯周病の原因、増悪因子となります。デンタルフロス、歯間ブラシできれいにするようにしましょう。

 

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『か』


唇(くちびる)ほろぶれば、歯寒し
唇が歯を保護していることから、互いに助けあうものの一方が亡びれば、他の一方も危うくなるたとえ。(広辞苑より改変)

【同義】唇歯輔車(しんしほしゃ)
【歯科医注釈】同盟関係にあった二つの国のひとつが破れて、もう一つの国が戦々恐々となっている様です。くちびるが実際になくなってしまうことはまずありませんが、たとえば口呼吸の癖があったり、夜間口を開けて寝る癖があったりますと、歯や歯ぐきが乾いてしまいます。唾液には雑菌の繁殖を抑える効果や、粘膜面の保湿作用があります。口が渇くことは歯周炎を悪化させる一因にもなります。反対に前歯が失われると、くちびるに対しての張りがなくなります。張りがなくなるということは、口唇(鼻の下周り)のしわが増えるということに繋がります。入れ歯をしても、しわが目立っている場合には前歯をもう少し前に出して作ると、しわが目立たなくなることもあります。唇歯、密接な関係ですね。

 

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『さ』

歯牙にもかけない
全然問題にしない。無視する。(広辞苑より改変)

【対】歯牙の間(かん)に置く

歯牙の間(かん)に置く
論議の対象にする。問題にする。「歯牙に挂(か)く」とも表現する。(広辞苑より改変)

【対】歯牙にもかけない
【歯科医注釈】噛んで食べようとするか、口にも付けようとしないのかの違いですね。歯牙の間とは、上の歯と下の歯との間ですよね。もちろん隣同士の歯と歯の間ではありません。

 

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『は』

歯が浮く
1. 歯の根が動く。
2. 酸っぱいものなどを食べて、歯がしみるように感じる。
3. 軽薄でキザな言行を見聞きして不快になる。(広辞苑より改変)

【歯科医注釈】広辞苑では不快になるようなセリフと書かれていますね。実際歯周病で歯が浮いた感じというのは、鈍痛のような不快なものです。現在では照れるような誉め言葉にも使われることがありますが、原義では不快な状態になるときに使う言葉のようです。

歯が立たない
1. 硬くて噛(か)めない。
2. 相手が手強く、対抗できない。物事がむずかしくて、かなわない。(広辞苑より改変)

【注釈】刃が立たない、ではありません。
【歯科医注釈】噛みつくというのは、本能的な攻撃行動であったり、捕食行動であったりします。瓶の栓や缶の蓋をかじって開けるようなことを子供の頃していた方もあると思います。歯は取り替えのきかない資源ですので、いたわってあげてくださいね。

歯に衣(きぬ)着せぬ
相手に遠慮せず、思っていることをあけひろげに言う。隠すことなく率直に言う。(広辞苑より改変)

【対】奥歯に衣(きぬ)着せる
【注釈】歯に服なんて被せることはないのに、よく使われる言い回しですよね。実際にはその反対の表現もあったわけです。

歯に合う
かむことができる。相性が合う。(広辞苑より改変)

【歯科医注釈】慣用句の語源はかみ合わせがピッタリとしている、美味しいものを好んで食べる、などから来ているのでしょう。もしかすると入れ歯がピッタリとしている、なんてことに語源があるかもしれません。入れ歯は江戸時代の頃から作られ、当時は木を削って作られたそうです。当時の西洋のバネを使った金属のものより、数段優れていたそうです。ちなみに歯科で歯に合うといえば、詰め物がピッタリと適合しているとか、入れ歯がしっかりとしている、ことを指します。

歯の根が合わぬ
寒さや恐れで、震えたりのいたりする様。(広辞苑より改変)

【注釈】常夏(常梅雨か?)の国シンガポールでは歯がガタガタするなんてことは、ないですよね。高熱などを出した場合は、体験できるかもしれません。ちなみに歯がガチガチするのは、アゴの筋肉を支配している神経が過緊張を起こし、筋肉が断続的に反応しているためです。

歯の根も食い合う
非常に親しい関係。(広辞苑より改変)

【歯科医注釈】上と下の歯がピッタリとかみ合っているだけでなく、歯の根っこまでということですか。少しこわいような表現です。もちろんこれは歯の上の方だけでなく、歯の根元までがっちりと噛んでいることを意図した表現です。歯科医から見ますと、隙間もなくがっしりとかみ合っている方は、要注意の方です。隙間がないことは、かみ合わせに対して遊びがなく、噛む力が逃げることなく歯に直接かかってしまうからです。年を重ね、歯を支える骨が少なくなってくると、歯がかけやすくなったり、歯が割れてしまったりすることがあります。

歯の根を鳴らす
歯を食いしばり、耐えている様子。怒っている様子。(広辞苑より改変)

【歯科医注釈】音が聞こえるほど、ぎりぎりと歯ぎしりする様ですね。いわゆる歯ぎしりには3種類あります。歯を左右に動かすもの、カチカチ歯を鳴らすもの、ぎゅーっと噛み締めるもの、の3つです。歯は使うことによって、すり減っていくものですが、歯ぎしりがあると歯のすり減り方が早くなります。また骨やアゴの関節に負担がかかりすぎたり、歯が割れたりする原因にもなります。本人が気づくことはあまりありませんが、周りの人から指摘された場合には一度チェックすることをお薦めします。

歯の抜けたよう
まばらで不揃いな様。あるべきものが欠けてしまって、さびしい様子。(広辞苑より改変)

【歯科医注釈】歯の状態によって、年齢はある程度分かります。職業柄、そのような方にはご同情を察し申し上げます。歯が抜けると、他の歯にも相応の負担がかかるようになります。今の状態が維持できるように、今までにも増してきめ細やかなチェックをして下さい。

歯を噛(か)む
残念がる。歯ぎしりする。(広辞苑より改変)

【歯科医注釈】噛むという字は、口偏に歯という字を書きます。また口偏に交じると書いて咬(か)むとも書きます。かみあわせは咬合(こうごう)と書きます。よく噛むことを咀嚼(そしゃく)といいます。こう見ると当て字が多いですよね。私が中学生の頃、ワープロにこんな字がなかった時代、父親の原稿作りのためこれらの外字を作った覚えがあります。「上司の過酷な要求は熾烈を極めた。」某番組の一場面のようでした。歯がみもしたでしょう。それにくらべて今の日本語環境は本当にラクになりました。

歯を出す
叱る。怒る。(広辞苑)

【歯科医注釈】歯をむき出しにして怒る、といえば想像もつきやすいでしょう。歯を出して笑う。これはこれで楽しそうですが、日本では笑うときに手で口元を隠す、風習がありました。喜怒哀楽の中で、歯を出すのは怒るときぐらいだったのでしょう。白い歯ののぞく自然な笑顔はすてきなものです。明眸皓歯という四文字熟語もあるくらいです。歯を出すの原義が変わる時が来ている頃ではないでしょうか。

歯を食いしばる
無念・憤怒・苦痛・困難などをこらえるさまにいう。(広辞苑)

【歯科医注釈】「歯を食いしばれー」といわれた後ビンタが飛ぶような時代は過去のものになったのでしょうね。昔からいわれていますが、ストレスがかかった時や、瞬発的な力が必要な時には、全身の筋肉が緊張します。筋肉の中でかみ合わせの筋肉は非常に強い部類に入ります。歯がしっかりしていないと、歯が筋肉に負けてしまいます。また筋肉が一番力のかかる位置で噛めることは重要なことです。スポーツ選手などにはこの重要性は常識となっています。知らず知らずのうちに食いしばることは多いものです。歯ぎしりは良くないことですが、いざというときにはしっかりと歯を食いしばることの出来る状態にはしておきたいものです。

歯を切(セッ)す
歯をくいしばる。切歯する。(広辞苑)

【歯科医注釈】歯と歯とをきしり合わせること、が原義です。歯科用語で切歯といえば、ヒトの歯であれば、上下左右の前歯合わせて8本を指します。

歯を没す
命が終る。死ぬ。(広辞苑)

【歯科医注釈】野生動物では歯がなくなると、捕食できないため、歯がなくなるということは死ぬということを意味します。ちなみに年齢の齢という字は歯偏から成っています。歯の状態によって、おおよその年齢が分かるところから来ています。歯という字自体に「よわい(齢)」という意味が含まれています。令は発音を司る字です。最近では年令とも書くようになりました。

歯節(はぶし)へ出す
口に出して言う。(広辞苑)

【歯科医注釈】歯節とは歯ぐき、歯の付けねのことを意味します。「口に出す」という意味を婉曲的に伝える言葉ですね。発音は声帯のみではなく、舌やくちびるを歯の先や歯の根元に当てて発声します。歯並びが悪かったり、人工的な歯がはいったりした場合には、発音が変わることがあります。また管楽器をしている方は、演奏する感覚が異なってくることがあります。発音に気を遣う人や管楽器を演奏する方で前歯の治療をなされる方は、あらかじめ歯科医にお話ししていただくことをお薦めします。治療の前に参考の歯型を採り、それに近い形である程度復元することも可能です。参考に出来るものがない場合、満足いただけるものができあがるのに時間がかかることがあります。

歯亡び舌存す
剛強なものはかえって早く亡び、柔軟なものが長く存在する。(広辞苑より改変)

【歯科医注釈】歯の寿命は人それぞれです。むしばや歯周病によって、歯を抜かざるを得ないこともあります。舌がなくなることはあまりありませんが、舌癌により切除を余儀なくしなければいけないこともあります。お口の中を健康に保つには、専門家による定期的なチェックが一番の方法です。定期的な観察やレントゲン検査により、病状の進行具合や治療したところの治癒状態なども把握できます。慢性的な疾患については、定期的に見ることで、歯科医側も推移状態を把握でき、的確な判断が下せるようになります。歯を長持ちさせるには日頃の歯のお手入れが重要です。その次に重要なことは、かかりつけの歯科医を決めていただき、定期的な検診を受けることです。歯医者がイヤな方もあるかと思いますが、チェックを受けてお話に定期的に来る、というぐらいの気持ちで来てみてください。

 

 

【注】原文、歯科医注釈はある歯科医の個人的解釈です。

【注】本義は全て、広辞苑第4版を参考に致しました。
全く関係ありませんが、広辞苑(こうじえん)の読み方は私たちのクリニックの名前に似てますね。

 

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