ウニの歯
動物つながりです。今回は動物の歯についてお話ししましょう。
前回象の歯(象牙)について書きました。博物館などに行くと象の牙だけでなく、象の奥歯やマンモスの奥歯なども飾られていることがあります。シンガポール動物園では、象のショウの時に象の歯はこれくらいの大きさですよー、と見せてくれます。見たことはあるでしょうか。上野の博物館に行くとパンダの歯なども展示してあります。哺乳類にもなると歯はずいぶんと発達分化してきます。象やパンダは草食動物のため、草をすりつぶすような平べったい臼歯に分化しています。肉食動物では肉を噛みちぎるようなとがった臼歯に分化しています。
動物の歯はどのように発達を遂げてきたのでしょうか?
普段見ることが出来る動物の歯といえばペットの歯であるとか、魚の歯だと思います。博物館好きの人なら恐竜の歯などを見た方もいるでしょう。
歯はほぼすべての脊椎動物(骨のある動物)にみられます。しかし歯は骨から派生した物ではありません。歯は鱗(うろこ)に由来する物と言われています。原始的な魚で現存している物は、サメやエイなどの種類です。サメの歯は映画「JAWS」*などでも見られるように、鋭くとがった歯が無数に並んでいますね。あの歯は鱗が派生して出来た物なのです。魚以外の脊椎動物には鱗はありませんが、歯だけは有効組織として口の中に存在し続けています。
*ちなみにJawはアゴを意味し、上と下のアゴ2つがあるため複数形になっています。日本のサメの由来は「小さな目」から来ているようです。
魚類から爬虫類にかけて歯は円錐状の物が多数並んでいるにすぎません。恐竜の歯を見たことがある方なら御存知かもしれませんが、歯の根は存在していません。単に鱗(もしくは皮膚)を由来とする組織のため、皮膚の新陳代謝と同様に歯が抜け落ちても、何回でも歯が生え替わります。また歯の数も一定ではありません。歯は単に獲物を捕らえるための手段なのです。
哺乳類になると、歯は機能的な形態を持つようになります。草食動物と肉食動物とでは食生活が違うため、歯の形が異なります。
また哺乳類以降、歯は根を持つようになります。歯は硬い組織であるエナメル質、象牙質、セメント質からなり、中心部に歯髄と呼ばれるいわゆる歯の神経があります。このような形態を持つに至ったのは哺乳類からです。一番外側のエナメル質は皮膚由来の物であり、それ以外の物は骨や肉などと起源を同じくする物なのです。もしむしばが出来て象牙質にまで達しているとすれば、それは骨や肉が出ていることと同義になります。象牙質には細かな管が無数にあり、この管はいわゆる歯の神経に通じています。この管の透過性が高くなると物がしみたり、痛みを伴ったりします。歯科治療はよく外科処置に例えられますが、出血を伴ったりすること以外にも、身体の内部を扱うように歯に対応するため、極めて衛生的な処置が必要であることも外科処置に類似しています。
さて、表題のウニですが、どうなったのでしょう。歯は脊椎動物で出来た物、という説明もしました。ウニやカタツムリにも歯に似た組織が実際にあります。しかしながらこれらは炭酸カルシウムの塊であったり、鉄分の塊であったりする物なのです。脊椎動物の歯の主成分はすべてリン酸水酸化カルシウムであるため、解剖学的見地からはウニやカタツムリの歯は私たちの歯と同義ではありません。おそらくは進化の過程で引きつがれることのなかった物なのでしょう。また脊椎動物の中でも鳥類、カモノハシ、ヒゲ鯨の類のように歯を持たない物もあります。クチバシと一体化したり、食生活の指向で退化したりしたものと考えられています。
人類も現在は親知らずが生えなかったり、元々なかったりなど歯の数や大きさの退化が認められる様になってきました。アゴや歯の退化は顔貌にも影響します。未来の人類はアゴのえらの張りがなくなり、下のアゴが小さくなると考えられています。そのころには食生活も変わっているのでしょうね。その時にもウニは美味なまま食卓に上るのでしょうか?
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