歯痛の裏に心臓病(解説)

28 Feb 2003 Update

解説


 心臓病は日本人の死亡原因の2番目に位置するものです。


 心臓病のうち致命的になりやすいのが狭心症および心筋梗塞です。どちらとも心臓自身に栄養を送っている血管が障害を受けることにより引き起こされる病気で、心臓の筋肉が動かなくなってしまうものです。


 発作時の症状としては胸部の非常に激しい痛みが挙げられます。発作にまで到らない場合には,「もやもやした軽い痛み」「締め付けられるような痛み」として短時間の間感じられることがあるかもしれません。心臓病が慢性化していく中で、痛みの症状が今回のケースのように心臓以外に現れることがあります。この痛みのことを“放散痛”とか“関連痛(連関痛)”といいます。


 原発部位とは違うところに出る痛みは、心臓に限ったことではありません。
 卑近な例としては、かき氷やアイスカチャンなどキンキンに冷えた冷たいものを食べると、最初は喉の奥が冷たく痛い感じがします。その後こめかみ辺りまで痛くなるのを経験したことは誰しもあるでしょう。このことは冷たくて痛いという大量の情報が神経中に流れることにより、その神経が支配している別の部位が痛んでいるという情報の混乱が起きているのです。放散痛や関連痛の原理はこの痛みと同じです。
 放散痛や関連痛は歯やアゴが原因で起こることもあります。激痛を伴うむしばや歯槽膿漏、親知らずは時として他の歯がいたく感じたり、耳の周りがいたく感じたりすることもあります。


 慢性的な何らかの障害が続いている場合、原発部位は障害になれてしまい、ぜんぜん違った場所のみが痛んでしまう場合があります。とくに今回のケースのように自覚していない心臓病によって発生した歯やアゴの痛みを見分けることは困難です。


 痛みに対する対応策として、痛みの相当部位に障害が認められない場合には、近くの別の部位からの波及した痛みを医療者側は考えていきます。しかしながら別のところを治療したからと言って、いつもすぐに治るというわけではありません。考えられる原因を一つずつ消去していく方法になります。まずは近いところに原因が存在していないかを探します。ただ自覚のない内臓障害の場合には、原因を探し出すのは非常に難しくなってしまいます。


 心臓と歯やアゴの痛みの関係については、現在いろいろな面からの報告がされてきています。
・ 交感神経や迷走神経支配による別部位への障害の波及
・ 口腔内細菌の血行性伝播による細菌性心内膜炎等の発生
・ 歯科治療に伴うストレスや薬剤の循環器系への影響


 今回は・のケースで、痛みの錯誤の話です。心臓が痛むことにより、近くの胃腸の具合が悪くなったり、遠くまで錯誤が起こると喉の奥や耳周りまで痛くなることがあるのです。


 体は様々な器官が集まって一つの個体として働いています。どこかがおかしくなると、他の部分にすくなからず負担がかかります。このことは歯についても同じことが言えます。お口の中は唯一目に見えて自己管理が出来る内臓器官です。しっかりと管理していきましょう。


 また心臓についても最近は検査・診断方法も確立してきました。検査には主に心電図を用います。ポータブル型の心電図も開発され、24時間モニターをとり続けることも可能になりました。加えて血液検査や超音波診査を用いることもあります。心臓に自覚症状はないが軽度の障害を見つけだすことも出来るようになってきました。障害の指摘を受けた場合には他の部位に影響を及ぼさないためにも、リスクファクターの軽減に努め、食生活や日常の運動についても改善を図るようにしてみてください。


 心臓が悪くて歯やアゴが痛んでいるのに、つぎつぎと歯を抜かれることのないように(歯も悪かったのでしょうが...)、体の自己管理や定期検診はしっかりとしていきましょう。

 

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