台湾での医療事故
source: The Strait Times 22 April 2003, p. 6
22 April 2003 Update
【記事抄訳】
(台湾発)14本もの歯を抜かれた後昏睡状態に陥っていた10才の少年が、術後3か月で息を引き取りました。
防衛省は陸軍軍病院での歯科治療の出来事についてすぐに謝罪の意を表しました。
少年は昏睡状態からさめることなく、口や鼻からおびただしい出血を伴い亡くなりました。
Tri-Service総合病院は食道にある血管の破裂が死因であると発表しました。
地元の報道によれば、少年は1月21日歯科治療のため病院に行ったとのこと。しかしなぜ14本もの歯を一度に抜くことになったのかについては言及されていません。
The Taipei Timesによると、少年はひどい虫歯になり、医師は患歯から敗血症になりうることを危惧していたという。
少年の両親は14本もの歯を抜くことを伝えられてもいなかったし、全身麻酔下で行うことやそれに伴う危険性についても聞いていなかったという。
術後少年は呼吸困難となり、酸素不足による不可逆性の脳損傷をおうことになった。
手術に関わった麻酔医によれば少年は先天性の心疾患を持ち、このことが呼吸困難および血管の破裂につながったと言う。
医師たちが術前に少年の心疾患について知っていたかについては不明である。
病院長のChen Hung-yi少将はスタッフの過誤はなかったという。
病院側は医療費の請求はしていないが、少年の父親は少年の死につながったことに対する明確な説明を求めている。また父親は病院を告訴するとも言っている。
台湾の保健機構は非公式ながら台湾での医療事故は毎年80000件以上にもなるという。
【記事解説】
亡くなられた少年に哀悼の意を表します。
新聞の記事および写真を見ただけでは多々不明な点があります。台湾では連日報道をにぎわせているようです。確かにこの新聞記事だけでは少年の死に不可解な点がいくつもあります。
まずなぜ10才の少年が14本の歯を抜かなければいけなかったのか。もちろん生え替わりの歯も含まれているのでしょうが、口の中にある歯の半分以上を抜いたことになります。写真を見た限り抜かなくてもよかったのではないかと見られる歯もありました。この点について直接の死因ではないにせよ歯科医師側の根拠がききたいものです。
歯が化膿することによって大量の細菌が骨中に入り込むと、骨髄炎や蜂窩織炎を起こすことがあります。抜歯等の外科手術により血液中に大量の細菌が入り込むと菌血症や敗血症と呼ばれる病気になることがあります。このケースのように心臓に疾患がある場合には、血液のよどむ場所に細菌が大量に流れ着くことがあります。通常、易感染性の患者さんには術前の抗生物質が投与されます。しかしながら敗血症にて様態が急変してすぐに死亡することは、あまり考えられません。
死因として考えられるのは、
1. 大量の出血に伴うショック、または
2. 全身麻酔吸入時の挿管(もしくは抜管)の過誤
でしょうか。
1. 抜歯操作時に何らかの動脈を傷つけることによる大量の出血があったとも考えられます。大量の出血は急激な血圧の低下をもたらし、意識の混濁(脳内血液量の低下)をもたらすことがあります。
ただ、通常の抜歯時に動脈を損傷することは普通ありえません。喉の奥の方には動脈が粘膜下の浅い位置を走っていますが、10才の子供の抜歯時に触るところではありません。
2. 麻酔ガスのチューブを子供の喉元に入れる(外す)時にうまく気管に入れることが出来ず、食道(さらにその奥)を傷つけたのではないかとも考えられます。死因が食道からの出血とあるのが気になるところです。死亡時に鼻や口から出血を伴ったのは食道から血が出たことにより、鼻や口からあふれたためと思われます。呼吸困難になったというのは気道内に血が充満して窒息したのではないかと推察します。
子供の場合食道および気管が狭いため、誤ってチューブを食道に入れ傷つけたのではないか。また食道における迷走神経を傷つけたことが心臓の機能低下を招いたのではないか。等々想像してしまいます。
どこの歯をなぜ抜いたのか、麻酔の挿管方法はどうだったのか、など記事だけでは不明です。事故が軍病院で起きていることも解明が遅れていることにつながっているのでしょうか。
直接の原因が歯科医側にあるのか麻酔医にあるのかは不明です。
それにしても台湾において毎年80000件もの医療事故が起きているというのはちょっと考えられないことですね。
【後日記事追加】台湾の同病院には他にも信じられないような医療事故が何件かあり、被害者家族が集まって集団訴訟するかもしれない、と報道されていました。
頭皮を他人の足の裏の皮膚に移植した結果、頭はツルツルなのに足の裏に毛が生えたなどの医療事故もあったそうで、ちょっと想像の域を超えています。
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