Mind Your Gums
歯茎にご注意
Mind Your Body, The Straits TImes May 30 2007, p.8-9
【抄訳】
歯茎のケアをしっかりすると、ガンや心臓病、糖尿病などをコントロールできるかも?
今年の初め、歯周病(歯茎の病気)を積極的に治療することによって、血管壁の機能を向上させることが判ってきました。このことは心臓病のリスクを減らすことに繋がります。
実はこの発表よりずっと前から、歯周病を患っている人は、そうでない人に比べて膵臓ガンになりやすいと報告されていました。また、別の研究では歯周病が糖尿病や心臓発作などともつながりがあるといわれていました。
科学的根拠が現在集積されて、「歯や歯茎をケアすることは、ただ単にお口の健康を保つだけではなく身体全体にとってもいいこと」であることが判ってきました。
たとえば膵臓ガンにおいては以前から歯周病との関連性が報告されていましたが、調査の対象者の中に喫煙者が含まれていたため、結論が曖昧でした。喫煙もガンの危険因子(リスクファクター)だからです。今回発表された報告は、全く喫煙の経験がない人で調査したところ、歯周病は膵臓ガンの発生率を2倍にすることが判りました。
慢性炎症はどこであっても、もちろん歯茎の腫れもそうですが、サイトカインと呼ばれる炎症性化学物質の放出を促します。サイトカインは糖尿病や心臓病を含む様々な問題を引き起こします。別の報告では、血流を通してお口の中のばい菌が直接体中にばらまかれる事によって、全身的な問題が起こるとされています。
歯茎の慢性炎症で発生するサイトカインは血糖値をコントロールするホルモンであるインシュリンで制御されているシステムを乱すのです。つまりサイトカインはインシュリン抵抗性を惹起させ、このことが糖尿病に繋がるのです。
そして肥満は糖尿病の主要な原因の一つとして知られていました。理由の一つとして、体内の肥満細胞が数多くのサイトカインを放出するからです。肥満は現在、歯周病の直接的な危険因子としてみられるようになってきています。
サイトカインは動脈壁内の炎症を引き起こし、血圧を上げ、コレステロール値を悪化させ、血栓を増やし、これらのことが致命的な心臓発作に繋がりうるのです。
多くの歯をなくした人は、高い確率で重症の歯周病および冠動脈(心臓への栄養・酸素供給をする動脈)の狭窄が認められました。また喫煙経験のない人においても、歯周病と梗塞の直接的な関係が判ってきました。
歯周病と全身疾患との関連は双方向性であり大変重要です。しかしもっと重要なことは、全身的な疾患との関連性がなくとも、ご自身のお口を大事にすることです。歯を磨きフロスをして、定期的な歯科医によるチェックは、歯周病のリスクを減らすことができるのです。
【解説】
お口の中の問題が全身的な問題に繋がることは以前から言及されてきています。
臨床的な経験に基づく関連づけ今までもあったのですが、今回の報告では他のリスクファクターを廃し条件を統一した上で臨床的なデータを統計学的に処理したものに基づいています。
全体として話の展開が難しくなっていまので、要約しますと …
慢性炎症が長引くことによって、外来抗原(異物、細菌など)に対して攻撃するはずの身体の抵抗力が自分自身に影響を及ぼす、という話です。身近な例としては、アレルギーを挙げることができるでしょう。本来なら自分の身体を守るために反応するはずのものが、必要以上に反応することによって自分の身体に影響が及ぼすことがあるのです。
歯周病(歯茎の病気)は歯石の中に細菌がずっと存在し続けることによって(自分の身体の反応のみでは排除することができない)、炎症反応を終えることができません。その間に炎症性物質が放出され続けることによって、身体に様々な影響が出てくるのです。歯肉の炎症による歯周組織の破壊は細菌毒素によるものではなく、多量の炎症性物質(サイトカインなど)が自分の身体に反作用をもたらした結果です。この炎症性物質が血流やリンパ組織を通して遠方に悪影響をもたらす可能性としてあげられるのが、今回の記事にあった膵臓(膵臓ガンや糖尿病)への影響や梗塞(心筋梗塞・脳梗塞)になります。
本文にもありましたが、歯周病によって必ず上のような合併症が起こるというわけではなく、発生率が2倍程度に上昇するというものです。全身疾患の原因となりうるから、歯や歯茎をケアしましょうというものではありません。特に全身疾患の憂いがない人でも、お口のケアは必要です。そしてそのなかでも糖尿病などでコントロールが難しい人は歯茎のケアを人一倍心がけることで、糖尿病のコントロールの一助になりうることが示唆されているのです。
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