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要旨 非常に初期のむしばは自然治癒する場合があります。 |
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少し前の日本のCMで初期の虫歯を治す歯磨き粉が紹介されたことがありました。つい最近では、歯を内側から強化するガムも発売され始めました。学校歯科検診では、とがった器具の使用を控える、といった記事が載るようになってきました。これらには何か関係があるのでしょうか?
これらのことは、ごく初期のむしばに自然治癒する場合があると確認されたことと関係しています。
私たちは食べたり飲んだりすることにより、お口の中の環境がめまぐるしく変わっていきます。飲食により、お口の中は少なからず酸性の環境になっていきます。当然ながら酸(す)っぱい物は顕著にお口の中を酸性にしていきますし、甘い物は細菌の直接の栄養源となるため、酸を作る細菌が増えることになります。
酸性の環境は歯にとって好ましい状態ではありません。歯の表面はエナメル質と呼ばれ、硬いカルシウムの結晶(アパタイト:水酸化リン酸カルシウム)で出来ています。たとえば、大理石の床や真珠などに酸性の洗剤が厳禁であるように、酸に触れるとこれらカルシウムの結晶は溶け出していきます。
それでは歯は酸によって溶け出す一方なのでしょうか?
ご安心ください。そうではありません。お口の中には唾液(つば)があることにより、歯が一方的に溶け出すことを防いでいるのです。
唾液にはまずpH(ペーハー:酸性・中性・アルカリ性の指標)の緩衝作用があります。簡単にいえば、急激に酸性に傾くのを防いだり、酸性に傾いた環境を元に戻そうとしたりする働きです。この働きにより食後の数時間で、ほぼ元通りの中性に近い環境に戻っていきます*。
*食べ物を口の中に長期間含んでいたり、間食を数多く取ったりすると、中性に戻ること無く、酸性の状態が長く続いてしまうことにつながります。
唾液の特徴として、カルシウム結晶による飽和水溶液であることも、重要な役割を担っています。塩水の中に塩が溶けきらないで下に沈殿している状態を想像してください。飽和水溶液とは、温めたり冷やしたりすると、沈殿している塩の量が変わってくる状態の塩水のことをいいます。酸によって溶けだしたカルシウムの結晶も、環境が戻ると、元の所に沈殿していくのです。
すなわち、酸によって歯はたえず溶けているものの、しばらくすると溶け出したカルシウムの結晶は歯に戻ってくるのです。ごく初期のむしばであれば、治癒しうる、ということになります。
カルシウムの結晶が溶け出した歯の表面は、粗造になっているため、歯が白く濁って見えることもあります。狭い範囲の白濁程度であれば、様子を見るだけでいい場合があります。広い範囲で白濁している場合は、溶解が進み、中心部で再結晶化できなくなっている場合もあります。
フッ素は虫歯予防として使われています。歯の表面にカルシウムが再結晶化する際に、フッ素はカルシウムの結晶構造を変化させ、溶けにくく強度の強い結晶を作り出します。
文頭に紹介した歯磨き粉は、歯の元になっている結晶を配合した物です。唾液中に溶出した結晶成分と同じ物を加えて、濃度を高めることにより、歯に対して再結晶化を促し沈殿しやすくしています。微少な虫歯はこの歯磨き粉で治る、と宣伝したわけです。ガムの話はこの表面上の結晶の再石灰化に対し、もう少し広い範囲で結晶が出来るようにしたものです。
また学校検診でとがった器具を使わないようにしたことは、溶けかかっている結晶部分をむやみにさわって、再結晶化しうる部位を壊さないように配慮した考えからです。
唾液で洗われる環境が出来ていることは非常に重要です。もし汚れた物が溜まったままであった場合、唾液の働きが行き届かず、むしばの進行につながりやすくなっていきます。
Copyright © 2002-2011 by Dr K. Sakurai, Ko Djeng Dental Centre Pte Ltd. All
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K. SAKURAI.
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