牙シリーズ、二回目です。
前回,牙は歯を意味することを書きました。ということは、象牙は象の歯ですね。いわゆる象牙と呼ばれる牙は、象の前歯が長く伸びたものです。
サイのような角とは違い、象牙の牙は私たちの歯と同じような構造をしています。つややかな色合いであったり、光の加減によって格子模様が出来たりするのは、硬いカルシウムの結晶構造が規則正しく並んでいるためです。イミテーションのプラスチックであったり、動物の骨を砕いて練り固めたりしたものに、このような表面の光沢はありません。
象牙が歯と同じ構造ということは、当然真ん中にはいわゆる歯の神経もあります。密猟者が象の牙を生きたまま取ったとしたならば、それは象の前歯を折ったと同じことなのです。象の牙は、威嚇のための牙であったり、草や木の根を掘り返すための道具の牙であったり、異性を引きつけるための牙であったりもします。これを失ったことは、単に生き抜いていくための道具を失ったばかりではなく、歯の神経が出てしまうことになりますので、ひどい激痛を伴うことは想像に難くありません。麻酔銃で撃たれた後、前歯を折られてしまうなんて、私だったら絶対体験したくありません。
ここシンガポールでは日本より象牙が安く手に入るようです。以前日本に向けてシンガポールから大量に象牙を密輸しようとした人を、検挙したことが伝えられていました。死んだ象やマンモスの象牙なら動物愛護の点からは非難されることはあまりないのでしょうが、ビジネスとして象牙を確保するには死んだ象からだけでは、おそらく数が足りないでしょう。
個人の些細な満足感だけのために、象が犠牲になるのはいかがなものでしょう?日本で高価なだけで、特に象牙自体に財産価値もないこと。手にしている象牙が実際には歯であること。などとかんがえる人が増えれば、象牙の需要量も減り、動物愛護に繋がるかもしれませんね。だって、手にしているハンコが、自分の歯、もしくは他人の歯と考えてみてください。歯科医の私なら手袋をします。あなたならいかがですか?
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